NEW MONAURAL
2018 - Present
Personal Work
「New Monaural」(ニューモノラル)は、主に一側性難聴者をターゲットにしたモノラルミュージックプレーヤーアプリです。ステレオの楽曲をヘッドフォンの片側だけで聴いても自然なサウンドで楽しむことができるようになっています。一般的なモノラルとは違い、左右のチャンネルを音場空間の中でミックスし、一側性難聴者が普段(ヘッドフォンを使わずに)音楽を聴いている時の音のバランスをモノラルで再現します。
私たちが普段聴いている音楽は、ときに片側だけにヴォーカルや楽器を振り分けるように音像定位が作られていることがあります。そして、一側性難聴者がヘッドフォンでそれを聴いた場合、不自然なサウンドになる場合がある。プロデューサーやミキシングエンジニアが楽曲に込めている工夫が、むしろ災いしているわけです。
今はアクセシビリティに配慮したプロダクトが普通に手に入る時代です。音楽が好きで、例えばiPhoneで音楽を聴くならば、iOSのモノラルオーディオの機能を使うことでその不自然さは解消できます。しかし、そのような機能を常時ONにしておくことは、「ステレオを諦める決断をすること」とも言い換えられます。何かを失って、その代わりに不都合を少しだけ解消する。楽曲の意図などをスポイルして、とりあえずモノラルにする。それが果たして、一側性難聴者の音楽ファンが望んでいることなのか。このアプリの企画に思い至ったのは、そのような疑問を抱いたからでした。
モノラルに切り替えるだけの一般的な機能でも、ユーザビリティ的には問題ないはずです。これ以上分かりやすくも、シンプルにもしようのない機能とUI。ですが、ユーザー体験の面で言えば、必ずしもそれで十分だとは限りません。ONとOFFの間にはユーザーの決断があり、その決断の前後には、大げさに言えばユーザー自身の過去と未来が関わってくる。機能上の手軽さやシンプルさと、ユーザーがそれにどのような意味と重みを感じるかは、この場合は何の相関関係もありません。
ユーザーにそのような選択を迫ることなく、普段通りの感覚で音楽が聴ける手段を提供する。諦めるためではなく、楽しむためのデザイン。ステレオをモノラルへとスポイルするのではなく、新しいモノラルの概念を生み出すもの。それがコンセプトの根幹であり、このアプリの目指したゴールです。